弁護士雑感

2016/02/09 弁護士雑感

【弁護士雑感】覚せい剤について

 最近、元プロ野球選手が覚せい剤取締法違反の罪で逮捕されるというニュースがありました。そこで、今回は覚せい剤について、少し書いてみたいと思います。

 当事務所では、私選弁護人として被告人の刑事弁護の御依頼をお受けしていますが、私自身は、国選弁護人としても被告人の刑事弁護活動をしています。そして、私が国選弁護人として就いた被告人の罪状で、最も多いのが「覚せい剤取締法違反」です(大阪の特徴のようです)。そのため、私も多くの覚せい剤の所持・使用の罪を犯した被告人と話をしてきました。

 覚せい剤取締法違反の罪の弁護人として活動する以前の私の覚せい剤に対する勝手なイメージは、覚せい剤は日常生活では得られない興奮・刺激・快楽を得ることができる薬物であるというものでした。そのため、覚せい剤は一度手を出した後はやめられないという話はよく耳にしていましたが、その理由についても、簡単にはやめられないくらい興奮・刺激・快楽の程度が大きいのだろうと考えていました。

 しかし、被告人の多くから話を聞くと、私の上記認識は誤りであったかと思います。

 あるとき、初めて覚せい剤取締法違反の罪を犯して捕まった被告人が、初めて覚せい剤を使用した時の感想について、「最初に覚せい剤をやった時は、頭が非常にスーッとして、頭が非常に冴える感じで気持ちが良かったが、自分が期待していたほどの快感というものはなかった」と話してくれました。私はそれに対して、「それほど良いものでなかったのに、覚せい剤をやめられなかったのは何故なのか」と尋ねると、その被告人は、「覚せい剤をやった後に、効果が切れると日常生活が本当につまらなくなって、苦しくなる。時折、頭がボーっとして、意識はあるんだけど、考えるのが面倒になって、まるで自分だけ白黒の世界にいるように感じることがある。そんな時は生きているのが嫌になる。そんな状況から逃げたくて、また手を出してしまう」と更に説明してくれました。私は、それを聞いて、覚せい剤をやめられない人の気持ちが初めて少し分かった気がしました。私は、重ねてその被告人に「もし、覚せい剤をやる前の自分に戻れるとしたら、戻りたいと思う?」と尋ねると、その被告人は強く頷き、「捕まったからとかじゃなくて、そういうことを抜きにして、やったことによる自分へのマイナスの影響が大きすぎると思います」と話してくれました。

 覚せい剤は、一度手を出してしまうと、精神に病を抱えてしまうため、かかる病による苦痛から逃れるため、新たな覚せい剤に手を出してしまうという悪循環に陥ってしまうようです。私は、覚せい剤をやめられないのは、快楽への欲求を我慢できない自分の意思の弱さの問題だと思っていましたので、最初は被告人に対して、「強い意思をもってやめることはできませんか。」といった論調で話をしていましたが、上記のような話を聞いてからは、安易に意思による解決を求めることをやめ、覚せい剤を使用する以外の方法で、そのような精神的苦痛から逃れる方法はないか、被告人の現状に照らして一緒に考えるようにしています。

 最近では、中学生が覚せい剤を所持していたという驚愕のニュースもあり、年々、違法薬物の入手が従来よりも容易になってきているような気がします。違法薬物の誘惑がより身近なものとなっている今日において、一時の好奇心で違法薬物に手を出したくなるということがあるかもしれません。そんな時は、違法薬物に手を出してしまうと、刑事処罰にかけられ、社会的制裁を受けるということは当然の前提として、その後の自分の人生に耐えがたい痛みを伴うこととなるということを思い出して頂ければと思います。

<弁護士 松隈貴史>

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