弁護士雑感

2016/04/14 弁護士雑感

【弁護士雑感】パロディと商標権

 スイスの高級腕時計メーカー・ブランドであるフランクミュラー(Franck Muller)を模した(と思われる)パロディ腕時計フランク三浦に対する、商標登録無効の審判を取り消すとの裁判所の判決がありました。

 同判決内容そのものを確認したわけではなく、あくまでニュースで報じられている限りの情報ですが、少し商標法との関係及びそもそもの本件に関する問題点を考えてみました。

 まず、そもそもの「フランク三浦」という商標登録を無効とした先行審判について、おそらくは商標法81項に反する商標登録であったとして、商標法461項に基づき商標登録無効の審判申立がなされていたものと思われます。

 商標法では、81項において、「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なつた日に二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる」と規定されており、これは裏を返せば同一または類似の商品又は役務について同一又は類似の商標登録を受けることはできないという規定です。

 また、今回フランクミュラー側では大要「フランク三浦」の商標はフランクミュラーのブランド力にただ乗り(フリーライド)しようとするものであるとの主張もなされていたようですが、これは商標法417号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であるという主張または同15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く)」であろうと推測されます。

 そして、商標法461項は、「第四条第一項・・第八条第一項の規定に違反してされた」商標登録について、これを無効にすることを求めて審判を請求することができると定めています。

 今回の商標登録無効の審判は上記のような理由・経緯で請求されたものと思われるのです。

 本件に先行する審判が上記のようなものであったとすると、先行審判及び本件訴訟の争点は大まかに言ってしまえば次の三点です。

 それは①「フランクミュラー(Franck Muller)」と「フランク三浦」は「同一又は類似の商標」といえるか否か②「フランク三浦」の商標は「フランクミュラー(Franck Muller)」の商標の価値・ブランド力・顧客吸引力にフリーライドするものであり「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」といえるか及び③「フランク三浦」との商標により同社商品が「フランクミュラー(Franck Muller)」の商品であると混同を生じる虞があるか否か・・です。

 この点について、特許庁は上記三点のどれに該当すると判断したのかまでは分かりませんが商標登録の無効事由があると判断し、今回裁判所では無効事由は無いと判断されたことになります。

 ここから先は個人的な感想なのですが、今回裁判所の判断についてはおおむね妥当であるように思われます。※1

 まず①について、「フランク三浦」という商標と「フランクミュラー(Franck Muller)」という商標とでは、確かに発音した場合、似通った発音になることは否定できませんが、「三浦」という言葉が、日本語の地名氏名などの固有名詞としても一般的であることや、この部分が漢字で表記されていることなどからすると、両商標が類似しているとまでは言い切れないように思われます。※2

 また②について、これは類似する裁判例や特許庁の審判例でも判断が分かれているところのようですが(※3)、そもそもパロディにおけるフリーライドに関し、これを商標法417号に該当すると考えるべきか否かという点でも争いがあるところですし、仮に商標法417号の問題となりうるとしても、「フランク三浦」の顧客層は「フランクミュラー(Franck Muller)」の顧客層と重複しておらず「フランクミュラー(Franck Muller)」に現実的な損害が観念できないこと(両者の価格帯などから考えると、おそらくしていないでしょう※4)、「フランク三浦」との商標の存在により「フランミュラー(Franck Muller)」の商標のブランド価値や顧客誘引力などが損なわれるわけでもないこと(これは分かりませんが、特段馬鹿にしたパロディとも思われず、そのように思います)などからも同号に該当しないと考えるべきと思います。

 最後に③について、「フランク三浦」という商標をみて、これが「フランクミュラー(Franck Muller)」の腕時計であると誤認する人はまずいないでしょう。むしろほとんどの人は「フランク三浦」とは「フランクミュラー(Franck Muller)」のパロディであると即座に判断できるものといえるからです。もちろん、「フランク三浦」との商標を見て同社が「フランクミュラー(Franck Muller)」となにがしかの提携関係にあると考える人もまずいないでしょう。

 そして、このことは、「フランク三浦」の腕時計の価格帯が数千円程度のトイウォッチに属する物であるのに対し、「フランクミュラー(Franck Muller)」の腕時計は数十万円超という、いわゆる高級腕時計に属するという商品の性質などからも補強されるものといえます。

 その結果、上記①ないし③についてはいずれもその要件を充たさず、「フランクミュラー(Franck Muller)」の気持ちは十分に理解できるものの、商標登録が無効か否かという点については、やはり商標登録の無効事由はないものと考える外ないといえると思います。

 なお、余談ですが類似名称に関しては、弁護士業界においても同一名称の法律事務所が同一弁護士会内に複数生まれることのないように規定があり、これを受けて同一弁護士会内(大阪であれば大阪弁護士会内)においては同一名称の法律事務所は複数存在しておらず、かつ「橋下」姓の弁護士は現在のところ弊所代表の橋下徹しかいないことから、日本全国を見ても「橋下」との呼称を用いている法律事務所は弊事務所のみとなっております(もちろん「橋本」「橋元」などの名称を用いられておられる法律事務所はいくつもあります)。

※1 あくまでも商標登録の無効事由があるか否かという点についてです。不正競争防止法・民法の一般不法行為およびパロディ元への商道徳的配慮などの観点からの意見ではありません。

※2 「フランク三浦」がそのままカタカナで「フランクミウラ」若しくは「Franck Miura(もしくはFranck Miula)」などとして商標登録されていれば結論は異なったかもしれません。

※3 特許庁は「PUMA」と似通ったデザインで「SHI-SA」「BUTA」「UUMA」(だいたいどういうデザインかはお分かり頂けると思います)の商標登録がなされたのに対し、登録を拒絶していますが、裁判所は「SHI-SA」について繰り返して登録無効の審判を取り消すとの判断を下しています(「BUTA」「UUMA」などについては不服申し立てをしていないのかその後は不明です)。

※4 「フランクミュラー(Franck Muller)」の腕時計が欲しいが、高価であるので「フランク三浦」の腕時計を代替に購入するという人はまずいないでしょう。

<弁護士 溝上宏司>

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