弁護士雑感

2016/04/21 弁護士雑感

【弁護士雑感】TBS系ドラマ「99.9 刑事専門弁護士」について

 今週の日曜日から放送されているTBS系の「99.9 刑事専門弁護士」というドラマの視聴率が高いようです。

 私も視聴させて頂きましたので,今回はこのドラマを踏まえて,私なりに刑事弁護で考えたことを少し書いてみたいと思います。

 このドラマは刑事事件を題材としているので,前提として刑事事件の流れについて簡単に書かせて頂きます。

 まず,刑事事件が発生し,警察官が事件の犯人と疑われる被疑者を逮捕(*)したとします。

 そうすると,警察官は48時間以内に当該被疑者を検察官に送致しなければならず,検察官は当該被疑者について,勾留の必要性があると考えれば24時間以内に裁判所に対して勾留請求(最大20日間)をしなければなりません。

 そして,裁判所に勾留が認められれば,検察官は勾留が満期を迎えるまでに,当該被疑者をどのように処分するかを決定することになります。

 検察官の下す処分には,起訴処分と不起訴処分があります。

 起訴処分には公判請求と略式命令請求があり,公判請求とは一般に皆さんが知っている裁判を提起することであり,略式命令請求とは裁判などを行わずに,罰金を納めさせることで事件を終局的に終わらせる手続の請求をすることです。

 不起訴処分とは,文字通り被疑者を起訴しない処分のことなのですが,不起訴処分とされる理由としては,被疑者に犯罪の嫌疑がないこと(嫌疑なし)又は犯罪の嫌疑が十分でないこと(嫌疑不十分),若しくは犯罪の嫌疑が認められる場合でも,示談等が成立していることや,被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況などを考慮して,起訴するまでの必要性がないこと(起訴猶予)など様々です。

 仮に検察官が公判請求すると,その時点で「被疑者」から「被告人」へと名称が変わることになります。

 以上が,刑事事件の前提知識です。

 このドラマを御覧になられた方はお分かりかと思いますが,このドラマのタイトルにある「99.9%」という数字は,刑事事件で検察官に公判請求された場合に,裁判で有罪判決が下る確率を示しています。

 平成26年度のデータでみると,判決を受けた58,595人の内,無罪判決が下されたのは124名であるとのことですので,計算すると無罪判決が出たのは全体の約0.2%であり,ドラマの数字は決して大袈裟な数字ではないようです。

 では,なぜこのような極端な数字になっているのでしょうか。

 要因は複数考えられるところですが,やはり検察官が有罪にできると確証している事件しか公判請求をしていないということが最も大きな理由として挙げられると思います。

 ここに一つの興味深いデータをご紹介します。

 平成26年度の起訴・不起訴率のデータなのですが,平成26年に起きた1,243,019件の事件の内,検察官が不起訴処分としたのは772,221件と全体の凡そ7割近くを占めているのに対し,起訴されたのは377,539件(その内,公判請求までされたのは90,840件)と凡そ3割しかありません。この数値だけを見ても,検察官が如何に起訴には慎重な姿勢を取っているかがお分かり頂けるかと思います。

 起訴されれば有罪率が99.9%という数字だけを見ると,この国において,実質的に有罪・無罪の判断をしているのは検察官であり,裁判所の主な役割はその追認と被告人の量刑判断といえなくもなく,それは本来の法が予定している役割分担からズレているのではないかといった疑問があります。すなわち,本来有罪・無罪を決めるのは裁判所の専権事項であり,検察官にたとえ有罪とできるまでの確証がなくとも,嫌疑が十分にあると認められる場合には,なるべく裁判所の判断を仰ぐべきではないのか,99.9%有罪となるという数値は異常ではないのかという疑問です。

 確かに,そのような考え方に立って実務が動けば,検察官も,公判請求した以上は必ず有罪にしなければならないといったプレッシャーから解放され,その結果,行き過ぎた捜査機関による自白の強要なども減少させられるのではないかとも考えられます。また,本来有罪判決を受けるべき者であっても,検察官が公判請求に慎重になり過ぎた結果,不起訴処分とされた者も少なからずいるはずであり,そのような者に対しても刑事裁判を受けさせることで,しっかりと罪を償わせることができるかもしれません。

 しかし,一方で,そもそも刑事事件の被告人として法廷に立たされるだけで社会的信用に傷がつきますので,「疑わしきは罰せず」の理念のもと,有罪とできる確証もなく公判請求すべきではないとの考えも十分成り立ち得るところです。

 したがって,「99.9%」という数値が示している現状は,果たして正しいのか誤っているのかというのは見解が分かれる所かと思います。

 あと,このドラマを見ていて,現実と異なる点について,一つだけ上げさせて頂きます。

 第1話で取り上げられたのは殺人事件ですので,裁判員対象事件ということになります。そのため,ドラマでもしっかりと裁判員裁判となっていましたが,裁判員裁判となると集中審理の形を採りますので,起訴されてから審理する期日が設けられるまでの期間は,準備期間として数カ月あります。したがって,あのように迅速に審理されるということはありません。ドラマはスピード感が大事なので,この点は仕方のない所かもしれませんが,こんなに早く裁判が開かれるものと誤解だけはされないようにお願いします。

 最後に,このたび九州地方で起きました震災の被害に遭われた皆様に,心よりお見舞い申し上げます。

 

* 逮捕・勾留されずに起訴される場合もあります(いわゆる在宅起訴)。

                                  <弁護士 松隈貴史>

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