弁護士雑感

2016/04/26 弁護士雑感

【弁護士雑感】ドライブレコーダーの勧め

 近年、自動車に取り付けて運転状況を録画し、事故時などに証拠として活用するためのデータを記録する、いわゆる「ドライブレコーダー」が普及しつつあります。

 当職までご相談いただいた交通事故案件においても、事故の相手方またはご相談者のどちらか又は一方がドライブレコーダーを付けていたというケースが散見されるようになりました(※1)。

 交通事故に基づく損害賠償請求においては、被害者の方の怪我や車両の損傷具合といった「損害論」と、当該事故における責任割合(通常過失割合などと表現されるものです)といった「責任論」の2点が争点となるものですが、ドライブレコーダーの記録により、限られた範囲とはいえ事故当時の客観的な状況が動画で確認できるということは、上記「責任論」の部分における紛争解決・真実発見に大いに役立つものといえるでしょう。 

 さて、このドライブレコーダー。

 当職所有の自動車にも取り付けておりますが、その種類や性能は様々なようです。

 そこで、交通事故に遭われた時に、証拠として活用するという観点から、お勧めのドライブレコーダーの機能特性をお話しようと思います

 なお、これはあくまで「訴訟において証拠とする」という観点から、このようなドライブレコーダーが望ましいというものであって、実際に同様の機能特性を持っているドライブレコーダーが存在しているかどうか、あるいは同機能を有しているのが当たり前であるか否かなどは分かりませんので、ご了承ください。(※2)

 

 1 LED信号の点滅速度と同調する心配のないもの

   これはインターネットのドライブレコーダーを紹介するページなどでも指摘されているところですが、LED信号の明滅周期とドライブレコーダーのフレームレートが倍数の関係にあり、同調してしまった際に、信号の灯火が映らない(信号が真っ暗に映る)ということがあるようです。

   これについては、なるほど交通事故の責任原因を探ることを目的とするドライブレコーダーの役割からすると、信号の灯火がわからない可能性があるということはデメリット以外の何物でもないことから、出来ればこの点をクリアするドライブレコーダーが望ましいものということはできます。

   しかし、こと訴訟上の証拠として活用するためという観点から考えると、実はそれほど重要性の高いものではないと思います。

   その理由は、①信号の灯火を判断しなければならないような交通事故ということは、すなわち一方が信号無視をしている場面ということであるが通常周囲を走行する別の車両の動きなどで信号の灯火は推測できる②そもそもそれほど明らかな事故の場合上記「責任論」部分は訴訟上の争点として浮上してこないなどということによるものです。

   とはいえ、どちらがベターかという意味では、LED信号に同調しないもののほうが良いということは間違いがないものといえます。

 2 事故の発生後、①自動で②事故前後③15秒から30秒程度の部分は記録できるもの

   交通事故の発生状況によっては、記録ボタン(保護ボタン)などを押す余裕のないこともあります。

   そのため、事故発生後自動で記録を作成し、保存するタイプが望ましいということになります。もっとも、最近は大容量の記録メディアを使用していることが多いでしょうから、いわゆる常時録画タイプでも上書きされてしまう心配はないと思えるので、この点は問題とならないかもしれません。

   また、記録する部分は事故前だけではなく事故後(少なくとも15秒程度、出来れば1分程度あるとベスト)の状況も記録できることが望ましいです。

   事故直前の車両の動きはそれ自体とても重要なものですが、交通事故は「突然の事故」であることがほとんどです。そのため、事故のまさに直前まで画面に相手方車両が一切出てこないということも多いのです。

   その結果、例えば相手方車両が方向指示器(ウインカー)を点滅させていたか、運転者は誰であるかなどの大切な事情を推し量る情報について、事故後の様子から判断する必要が出てくるからです。

 3 液晶画面がついているもの

   ドライブレコーダーを取り付けたはいいものの、カメラの向きが誤っていて(例えば上方にぶれていて)、写っていないということは最悪です。

   交通事故の現場でドライブレコーダーの画面を示して相手方や警察官に、悪いのは相手方であるということを示す・・などというドラマティックな出来事は現実の世界では起こりませんが(※3)、カメラの向きを的確に設定しやすいという意味で、出来れば液晶画面のついているドライブレコーダーが望ましいといえます。

   もっとも、液晶画面などなくても何度もセットを繰り返して適切なカメラ向きを確保すればよいのですから、手間暇をいとわなければどちらでもよいともいえます。

 4 車内の音声も録音できるもの

   交通事故に遭った際、通常の方であれば驚きの声やなにがしかの反応を示されるものと思います。

   そして、そのような事故直後の言動は、裁判資料としてみたとき価値の高いものであるということが出来ます。

   もちろん、事故直後であっても「ドライブレコーダーの存在を意識して演技をしている(自分は悪くないかのような言動を取っている)」可能性が全く無いとはいえません。しかし、通常人であれば交通事故という突発的な事態に遭遇した場合に演技をすること等はできず、事故直後の車内の状況(音声)は生の事実を反映させたものと考えることが合理的です。

   裁判所もこのように考えることが一般的であり、音声を記録できるということは実はとても大切なことといえるのです。 

 5 記録をWMP(ウインドウズメディアプレイヤー)で再生できるもの

   当該ドライブレコーダーの記録を証拠として裁判所に提出する場合、裁判所で再生できるファイル形式である必要があります。

   裁判所のパソコンは、基本的に余計なソフトはインストールされておらず、かつ余計なソフトのインストールは許可されていないため、再生できるファイル形式は極めて限定的です(※4)。

   そして現在のところ、当職の経験上裁判所で再生できるファイル形式はWMP(ウインドウズメディアプレイヤー)のみとなっています。

   もちろん、動画編集ソフトなどを駆使してファイル形式を変換したり、ドライブレコーダーの画面そのものを別のビデオカメラで撮影したりするなどと言ったやや強引な力技によりWMPで再生できるようにすることも可能とは思いますが、大変面倒なものであり、かつファイルの編集などに対しては相手方から「内容についても編集・改ざんした可能性がある」などと言われのない反論を受ける可能性も否定できません。

   この場合、元データそのものを証拠調べの俎上に上げなければ、最悪の場合ドライブレコーダーの証拠採用自体が否定されてしまうかもしれません。

   そのため、出来れば記録されたデータそのものがWMPで再生できることが望ましいものであるということになります。

  ドライブレコーダーの記録が裁判上の証拠となり得るかということ自体について、一部ではデジタルデータの編集の可能性などからこれを否定的に見るむきもあるようですが、昨今では裁判所もかなり柔軟にドライブレコーダーの記録を証拠として認めるようになっているように思います。

  事故はいつ、誰の身に降りかかるか分かりません。

  万が一の時のためにドライブレコーダーの導入を選択肢に加えてみても良いのではないでしょうか(※5)。

※1 とはいえ、実感としては2割を切る程度・・といったところです。

※2 ちなみに当職のドライブレコーダーは5年前のものなので、最新事情にはくわしくないのです。

※3 事故に臨場する警察官が、ドライブレコーダーの画像を見て現場で臨機な対応をするとか、それまでこちらを責めていた相手方が突如逃げ腰になるなどというようなことは現実の世界では起こりません。

   ドライブレコーダーの記録とはあくまで「後に証拠(資料)として活用するためのもの」なのです。

※4 裁判所の情報管理の観点からのウイルス感染防止のためであると聞きます。 

※5 ドライブレコーダーの宣伝ではありません。

<弁護士 溝上宏司>

   

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所