弁護士雑感

2016/05/11 弁護士雑感

【弁護士雑感】歯科治療について

 最近、当職の事務所でも歯科治療に関する御相談をよくお受けします。

 そこで、今回は、歯科治療について少し書いてみたいと思います。

 歯科医院は、現在、コンビニよりも多くあるとも言われ、専門家でもない限り、何処の医院の医師が技術的に優れているかどうかということは、我々一般の者には分かりません。したがって、ほとんどの方は歯科医院を選ばれるに当たっては、立地などを理由に選択されているように思います。しかし、当職の実務経験上、歯の治療には非常に高度な技術を必要とするものもあり、また歯科医師の治療技術も医師によって全く異なりますので、安易に立地だけで歯科医院を選ぶということは正直お勧めできません。

 当職も歯科治療の御相談を受けるまでは特に意識したことはなかったのですが、一般的に歯科治療においては、自分がどのような症状で、どのような治療方法があるかという点について、しっかりと説明を受けた上で、治療を受けたという御記憶のある方はあまり多くはないのではないかと思います(逆にいうと、もし、御自身の通院されている歯科医院が、そのような説明をしっかりとしてくれている場合、信頼できる医院であると言えるかと思います)。虫歯だと説明されれば、あとは担当医にお任せという流れが殆どなのではないでしょうか。

 しかし、従前の歯科治療に数多くの疑問が投げかけられている現状において、患者の側もある程度、自己防衛のために自分がどのような症状でどのような治療をされるのか、その治療法以外に選択肢はないのか、などある程度学習して臨む必要があると思います。特に、最近では、義歯などを作る場合、義歯にも多くの種類があり、高額なものだと新車の自動車が購入できるような値段の物もありますので、何らの知識も持たずに医師に勧められるがままにそれらの作成を依頼したりすると、それらが上手く適合しなかったような場合に非常に大きなトラブルとなる可能性があります。

 例えば、私が御相談を受けたものの中に「100万円以上をかけて、入れ歯(義歯)の作成を依頼したが、装着してから咬み合わせが悪いせいで、ずっと頭が痛かった。担当医に相談すると、『使い続ければ次第に慣れる』と言われるか、他の健全な自然歯を削られるだけで、結局状態が改善されることはなかった。最終的には医師から『信頼関係が無くなった』などという理由で一方的に治療を打ち切られた」というものがありました。かかる相談を受けて当職が色々と調査をしたところ、歯の咬み合わせの問題というのは、歯科医療の世界では非常に難しい問題の様で、未熟な歯科医師だとお手上げ状態になってしまい、適当な言い訳を並べられて投げ出されるということが多いという事実が判明しました。

 そのような状態となると、患者の側としては当然治療を担当した歯科医・歯科医院に対して、治療費の返還を求めたくなるわけですが、歯科医師側が自分達の治療に問題があった等と素直に認めて返金に応じてくれるということは非常に稀であり、そうすると結局は、調停や裁判等の公の手続を選択せざるを得ないことになります。

 そして、これは歯科治療に限らず、医療訴訟全般に言えることなのですが、医療訴訟は本当に大変な訴訟です。患者の側としては、治療を受けて「痛み」等の損害が発生しているのだから、当然賠償できるはずだと思われるかもしれませんが、医療裁判においては、結果だけでなく、それが現代の医療水準に照らして「不適切であった」と説明できる治療内容・治療方法であり、その不適切な治療を原因として損害が生じたとまで立証されない限り、損害賠償金を勝ち取る事はできません。そのため、裁判などにおいては、協力してくれる専門医の存在が不可欠になります。しかし、言うなれば他の医師が行った治療内容・治療方法に「不適切だった」或いは「問題があった」と御指摘頂く訳ですから、そのような勇気ある行動をしてくれる医師を探し出すことが、どれほど困難な作業であるかは御想像に難くないと思います。

 すなわち、最初におかしな歯科医院で歯科治療を受けてしまうと、最終的にそこまでの御負担を背負わなくてはならないという危険性があるということになります。

 当職は職務上、法的責任までは追及できないとしても、倫理的・道義的には完全に誤った対応をしている歯科医師を沢山見てきました。御相談者の中にも、「治療内容・治療方法についても腹を立てているが、それよりもその後の対応が許せなかったから相談に来た」という方が数多くおられました。ただ一方で、本当に真摯に患者と向き合い、歯科治療に専念しておられる歯科医師も数多く見てきました。面倒かもしれませんが、担当医師についてはその人間性にも触れ、なるだけ御自身が信頼できると考えられる方を探されることをお勧めします。

 あと余談ですが、「歯チャンネル歯科相談室」というHPもあるので、歯科治療に疑問をお感じの方は、ご参考にされてもよろしいかと思います。

                                 <弁護士 松隈貴史>

© 弁護士法人橋下綜合法律事務所