2017/07/18 弁護士雑感
【弁護士雑感】探偵業者について
依頼者の方から不貞行為についての御相談を受けた際、時折「お勧めの探偵業者はありますか」と聞かれることがあります。そこで、今回は探偵業者について少し書いてみようと思います。
まず、探偵業については、きちんと法律に定めがあり、「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。(探偵業の業務の適正化に関する法律第2条1項)」と定められています。
そして、「探偵業を営もうとする者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。探偵業の業務の適正化に関する法律第4条1項)」と定められておりますので、探偵業を営む場合には公安委員会に届け出をすることになっています。
すなわち、現行法上は、届け出さえすれば一応は探偵業を営むことができるということになっているわけですが、私としてはこの様に簡単に探偵業の開業を認めて良いのかというのはかなり疑問のあるところです。
というのも実際、私の元にも探偵業者との間のトラブルの御相談も後を絶ちません。
中でもやはり一番多い御相談内容は料金に関することなのですが、探偵に支払う金額というのは法外なものが非常に多く、せっかく証拠を掴んでも探偵に支払う費用で全て消えてしまうというのはまだ良い方で、中にはマイナスになるケースも多々存在します。
また、何一つ有力な証拠は得られないままに、高額の探偵費用だけを請求されるというケースもあります。私が御相談を受けたものの中には、自分の妻とは別人の女性を尾行していたというものや、尾行が下手で警察を呼ばれてしまったもの、開始5分で対象者を見失ったもの等、素人以下の業務を行っておきながら、平然と1日当たり20万円もの費用を請求してきた業者もありました。
私としても、新たなトラブルの原因となりかねませんので、可能な限りは御自身で調査を頂き、探偵業者に依頼されるのは最終手段として頂くようにお願いしているところです。
どうしても探偵業者に御依頼頂く必要がある場合であっても、契約する前にしっかりと契約内容について確認して頂く必要があります。
例えば、探偵業者が尾行していることを対象者に気付かれてしまった場合等、不測の事態が生じた場合にどのような対応となるのか等は非常に重要な話です。それにより対象者が二度と尻尾を出さなくなる可能性があり、依頼者としては甚大な損害を受ける可能性があります。したがって、そのような点については、ある程度信頼のおける探偵業者は、自らの責任の範囲を説明してくれるはずであり、逆に言うとその様なリスクと責任について何らの説明もしてくれない探偵業者は危険であるといえます。
また、探偵業者の「調査報告書」には、ほとんど「複製の禁止」と「情報の漏洩の禁止」の文言が記載されており、違反に対する損害賠償まで記載されています。しかし、依頼者は基本的に裁判等をすることを前提に依頼している訳ですから、資料の複製や情報の開示ができないとなれば、一体何のために探偵に依頼をしたのか分かりません。本来であれば、当然「正当な理由なく」などの一部例外を認める文言が入っていてしかるべきなのですが、少なくともその様な記載となっている報告書を私は見たことがありません。作成していただく調査報告書は、裁判資料として提出して良いのか等、しっかりと確認しておく必要があります。
我々弁護士は所属している弁護士会を通じて、役所や企業等に対して住所や連絡先等について様々な照会をかけることができ、この手続きは我々にとって非常に大きな情報収集手段の一つなのですが、この手続きも完全なものではなく、守秘義務等を理由に回答を拒絶されることがしばしばあります。
守秘義務等を理由に住居照会等を拒絶されてしまうと、結局、探偵業者に対象者の住所を調査してもらう必要が出てくるため、依頼者の方の御負担は重たくなってしまいます。
先月30日に、日本郵便が愛知県弁護士会の住所照会に回答を拒否したことの是非が争われた訴訟の差し戻し控訴審判決が名古屋高裁であり、高裁の裁判官は「日本郵便は照会に報告する義務がある」として、愛知県弁護士会からの訴えを認めてくれましたが、私としては一弁護士による見解ではなく、当該弁護士の所属する弁護士会が照会の必要性相当性等を審査している以上は、濫用の恐れが低いといえ、弁護士照会に対する回答義務については、より強固な裏付けが欲しいなと思っています。
私が直接関与した事件ではありませんが、依頼を受けた探偵業者が調査対象者から多額の金員を受け取り、依頼者には虚偽の報告をしていたという事件があったというのを聞いたことがあります。「なるほど、そんな手があるのか」と不謹慎に感心しつつも、自分が握っている秘密を他人に知られるということの危険性を認識した瞬間でもありました。
探偵業者を探される場合、一社だけでなく、最低でも二社は話を聞きに行き、両社の違いなどを比較した上で、より良い業者を見つけて頂くことを強くお勧めいたします。
〈弁護士 松隈 貴史〉