2023/05/08 弁護士雑感
【弁護士雑感】タレントの労働者性について
先日、大阪地裁において、アイドルグループを脱退した男性に対して、専属マネジメント契約を結んでいた事務所が「違約金」として約1000万円の支払いを求めていた裁判の判決がありました。当事務所でもこれまで同種の御相談をたびたび頂いているため、今回は、タレントの「労働者性」について、少し書かせて頂きたいと思います。
まず、芸能活動をされている方の呼び名は、タレント、アイドル、アーティストと色々あるとは思いますが、所属する事務所との間でマネジメントに関する専属契約なるものを締結されるのが一般的かと思います。
そして、恐らくは、「何処も同じ」というような説明を受けて、あまり契約内容について深く精査されることなく当該契約書にサインをしてしまっている方が殆どなのではないでしょうか(若い方が当事者となりますので、法的知識がそれほどないケースが殆どかと思います。)。
しかし、当該契約の中には、芸能活動については全て事務所の指示に従わなければならないことや、芸能活動を事務所の許可なしには行えないこと、芸能活動から生じた対価(著作権なども含む)等についても全て事務所に帰属するなど、事務所側にとって有利な内容ばかりが記載されており、極めつけはタレントが事務所の指示・要請に従わなかった場合、若しくは契約解除を求めた場合には、法外な違約金(100万円以上)を事務所に対して支払わなければならないということが記載されており、当該契約書の内容を文字通りに適用すると、事務所側は、かかる違約金条項を武器に、タレントを馬車馬のように働かせ、微々たる対価しか渡さないということが可能になってしまいます。
では、このような内容の契約は果たして有効なのでしょうか。
この点、タレントと事務所との関係性について、タレントが労働基準法上の「労働者」にあたるということになれば、労働基準法の適用を受けることになりますので、たとえタレントであっても労働基準法によって守られることになります。
すなわち、例えば、上記違約金条項についても、労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と明確に規定しているため、そのような違約金条項があっても無効ということになります。(上記裁判は、まさに元アイドルの男性が労働基準法上の「労働者」に当たることを認めたうえで、事務所側が求めていた違約金条項の規定は「労働基準法に違反し無効である」との判断をし、事務所側からの請求を棄却した事案になります。)
もし、タレント活動をしている方で、所属事務所の対応に不満を感じているものの、契約期間と違約金条項に縛られ、強制的にタレント活動を続けることを余儀なくさせられて困っている方がいらっしゃいましたら、その様な違約金条項は法律上無効であるとして争うことが可能な場合がございますので、最寄りの法律事務所に御相談されることを強くお勧め致します。
〈弁護士 松隈貴史〉