2016/09/29 弁護士雑感
【弁護士雑感】ホントのことでも名誉毀損
個々のニュース内容をあまり具体的に引き合いに出すと、それ自体が二次的な名誉毀損となりかねないようなニュースも多いのですが、名誉毀損行為を行っていると思慮される側のコメントや対応・一般の方のコメントなどを見ているとまだまだ名誉毀損というものが理解されていないと思うものも多いなあという印象を受けます。
そこで、今日は「名誉毀損」とはなんなのかということについて少しお話をしたいと思います。
名誉毀損行為については、民法上その成立要件についてこれを直接かつ明確に規定した条文は存在しておらず、名誉毀損行為は民法709条の不法行為責任の問題として処理されることになります。※1
他方、刑法においては刑法230条1項に規定があり、構成要件として「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。
民事上の名誉毀損の成否については、上記のとおりこれを直接かつ明確に規定した専用の条文などがないことから、不法行為の問題として、考えることとなるのですが、他方で民事上の名誉毀損についてはほぼ確立したといってよい判例法理が存在しているものといえ、決して曖昧な論理により名誉毀損の有無が判断されているわけではありません。
さて、このような刑事上・民事上の名誉毀損なのですが、意外と誤解されていることに「真実を述べたとしても名誉毀損は成立する」というものがあります。
会社において同僚に対して名誉毀損的な表現をしてしまったとして損害賠償請求を受けておられる方で、当事務所までご相談に来られた方の中にも「本当のことを言っただけなのに、なにを名誉棄損などと騒いでいるのか」というような趣旨のことをおっしゃられる方もおられますし、インターネット上のコメント欄などではその傾向はさらに顕著です。
しかし、名誉毀損における保護法益は、「人の社会生活上の評価」であるとされており、その人の社会生活上の評価を低下させるにあたって、真実を述べたのか虚偽の事実を述べたのかということは、あまり関係がないものとされているのです。
そのため、たとえ本当のことであっても、一般的に他人に知られたくないような、社会的評価を低下させるような事実をむやみやたらと吹聴することは、その真実性に関わらず名誉毀損罪の罪責を負うこととなり、民事上も名誉毀損に基づく損害賠償義務を負うこととなりかねない非常に危険な行動であるということが出来るのです。※2
もちろん、当該発言が①事実の公共性があり②専ら公益目的にあり③真実であると認められた場合には、たとえ当該発言等により他人の社会的評価を低下させたとしても名誉毀損罪は成立しませんし、民事上も不法行為責任を負うことはありませんので、その意味で「本当のことだから名誉毀損にはならない」というケースがあることは確かです。
しかし、政治家や社会に大きな影響を及ぼし得る事業家、著名人などに対する発言であれば格別、一般の方同士のやり取りにおいて上記①事実の公共性②公益目的の存在が認められることは決して容易なものではないということは、十分に理解しておいていただきたいところです。
なお、上記は名誉毀損に関するお話ですが、それとは似て非なる場面として、他人に関する事実を安易に口外することは、プライバシー侵害の問題も出てきます。
プライバシー侵害においては名誉毀損のように刑事責任の規定こそありませんが、民事上は不法行為責任を発生させ、損害賠償義務を負うこととなる可能性が存在するものです。
インターネットなどがますます発展してきている昨今、これまでと異なり一般の方でも一定程度の拡散力のある発信行為を行うことが容易になってきました。
ただ、これに伴って安易な表現行為により他人を傷つけ、場合によっては自分自身も刑事責任を追及されたり損害賠償義務を負いかねないというリスクも高まっているのだということにお気をつけ頂ければと思います。
※1 ただし、民法710条において財産以外の損害の賠償について名誉は保護法益として列挙されており、また723条において名誉毀損における原状回復として名誉を回復するのに適切な措置を取ること(謝罪広告など)を命じることが出来る旨を規定しており、名誉毀損行為が不法行為責任を発生させることに疑いはありません。
※2 たとえ相手方に不誠実で非があるような場合でも、相手方の職場や自宅に突然押し掛けて行って周囲の人に事実関係を吹聴する行為などは法律上いかにも危険な行動であるといえます。
<弁護士 溝上宏司>