弁護士雑感

2024/03/12 弁護士雑感

【弁護士雑感】強盗致傷罪について

 本年2月12日、女子中学生らがSNSで知り合った男子学生に対し、現金を奪う目的で大阪市にあるビルに誘い出したところ、男子学生が隣のビルに飛び移って逃げようとした際に転落し、死亡してしまうというなんとも痛ましい事件がありました。直接手を加えて突き落としたような事案ではなく、被害者自らが飛び移って逃げようとした際に、加害者らに適用される刑罰とは一体如何なるものであるのか、少し書いてみようと思います。

 

 まず、前提として加害者とされる中学生はいずれも14歳以上ですので刑事責任能力は有していますが、20歳未満の少年(成年年齢は18歳と引き下げられましたが、現在も19歳までは少年法の対象とされています。)ですので、一旦は必ず家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が、保護処分ではなく、懲役、罰金などの刑罰を科すべきと判断した場合には検察官送致(いわゆる「逆送」)とされ、大人と同様に刑事裁判にかけられることになります。

 

 では、仮に刑事裁判となった場合、どのような罪で起訴されるのでしょうか。

 加害者が被害者に対して直接有形力を行使していない場合に何処までの刑事責任を追及できるのかという点が問題となります。

 この点に関し、以下のような判例がありますので、ご紹介したいと思います。

事件の概要は、複数人が一人の男性に対して公園内にて暴行を加え、さらにマンション居室に連れ込んで繰り返し暴行を加えたところ、被害男性が加害者らのすきをみて、上記マンション居室から靴下履きのまま逃走し、加害者らによる追跡から逃れるため、上記マンションから約763mないし約810m離れた高速道路に進入し、疾走してきた自動車に衝突され、後続の自動車に轢過されて、死亡したというものです。

 この事件については、第一審(長野地裁松本支部)は、「本体では、本件被害者が本件高速道路本線上の本件事故現場で事故に遭遇したことは、被告人らの本件第1・第2現場での暴行から予期しうる範囲外の事態であって、当該暴行の危険性が形をかえて現実化したものであるとは到底いえず、被告人らの上記暴行と本件被害者の死亡との間に検察官の主張するような形での因果関係を認めることはできない。」として、加害者らに対して傷害罪を適用し、傷害致死罪での処罰を求めていた検察官の主張を排斥しました。

 しかし、東京高等裁判所は「被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係はこれを肯認することができる」として第一審の判決を破棄し、傷害致死罪の適用を認めました。

 そして、最高裁判所も「以上の事実関係の下においては、被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは、それ自体極めて危険な行為であるというほかないが、被害者は、被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められ、その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない。そうすると、被害者が高速道路に進入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから、被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した原判決は、正当として是認することができる。」として、東京高等裁判所の見解を支持しました。

 確かに、上記事件は、最後に暴行を受けたマンションからはかなり離れた場所で起きた衝突事故ですので、第一審が加害者らの暴行と衝突事故との因果関係を否定した点について理解できないわけではありませんが、急迫不正の侵害に遭遇した場合、普通の人はパニックに陥り、思いもよらない行動を取ってしまうということは自然であるように思いますので、結論の妥当性という観点からも東京高等裁判所と最高裁判所の判断は妥当であるように思います。

 

 そして、上記最高裁判例に照らすと、本件事件は、加害者らがいる場所で身の危険を感じた被害者が咄嗟に取られた行動ということになり、上記判例の事件よりもさらに因果関係は肯定されやすいのではないかと思われますので、仮に逆送されれば、かなりの確率で強盗致死罪によって起訴がなされると思われます。

 本件事件の加害者らには殺意まではなかったのだと思いますが、加害者らはお金が欲しいという極めて安直な理由で、人の命までを奪ってしまうという決して取り返しのつかない罪を犯してしまいました。本件事件を読んだ全ての人に、犯罪行為は時に加害者本人ですら予測のつかない最悪の結果を引き起こしてしまうことがあり、その結果は全て加害者自身が背負わなければならないのだということを忘れずに心に留めておいて頂きたいと思います。

                                     以上

 

〈弁護士 松隈貴史〉

 

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