弁護士雑感

2022/11/11 弁護士雑感

【弁護士雑感】B型肝炎給付金訴訟について

 弊所では様々な法律問題を取り扱っており、市民の皆様からも多種多様なご相談をお持ちいただいております。

 その中で、最近お伺いしたものの中で、少し心に残ったものにいわゆる「B型肝炎給付金訴訟」に関するお話がありました。

 もちろん、弊所でもB型肝炎請求訴訟についてはご相談をお受けしておりますし、ご対応もさせていただいているため、ある意味でB型肝炎請求手続きというものに少し「慣れ」や「スレ」のようなものが出てきているのかも知れず、一般の方にとってはB型肝炎請求手続きというものは、その他の法的紛争と何ら変わることのないものであって、容易に理解されるものとは限らず、専門家の助力を求めたくなるものであるということを改めて感じました。

 B型肝炎給付金請求について、いくつかの弁護士事務所のHPで打ち出しているような宣伝を主とした周知記事をここでお話するのは当ブログの趣旨と少し離れてしまうため、ここでは少し毛色を変えたお話をさせていただこうと思います。

1 わが国では昭和20年代の昔から法律の定めにより幼少期に予防接種を受けることが法律上強制されてきました(集団予防接種)。

 しかし、令和の現代とは異なり、昭和においては必ずしも医学的・衛生的な観点で正しい知識や知見が確立していなかったのか、あるいはわかってはいたものの昭和という時代故の「正しさよりも効率化を優先」するという姿勢の結果なのか、予防接種に用いられた注射器が連続使用され、それにより40万人を超えるB型肝炎ウイルス感染者が生じたといわれています。

 このB型ウイルス感染の被害者が、国を相手取って損害賠償請求を求めたものが、B型肝炎訴訟と呼ばれるものです。

 このB型肝炎訴訟及びこれに続く全国での集団訴訟を経て、全国の原告及び将来的に原告となりうる被害者と、国との間で和解協議が進められ、ついに個別の訴訟・裁判所の場を離れ、B型肝炎被害者に対する救済について、国と全国の原告及び全国弁護団との間で「基本合意」が成立しました。これは平成23年6月28日のことです。※1

2 この基本合意を受けて、平成24年1月13日、「特定B型ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」が施行され、裁判上の和解等が成立した被害者に対し、同法に基づいてB型肝炎給付金が支給されることとなりました。

 この「裁判上の和解等」を成立させるために行わなければならない訴訟・手続きが現在取りざたされているB型肝炎給付金訴訟であるということになります。

 そのため、B型肝炎給付金訴訟を経て、最終的に支払われる金員は、その実質はともかく少なくとも形式的には「賠償金」ではなく「給付金」であり、その支払根拠は民法709条(不法行為責任)や国家賠償法(国家賠償責任)ではなく、あくまで特定B型ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法であるということになります。※2

3 ただ、被害者救済のための給付金の支給根拠が「特定B型ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」という法律であり、形式的には「給付金」であることから、支給される給付金の額や、受給のための要件(裁判上の和解を成立させるための「和解対象者認定の基準」)などはどうしても画一的なものとならざるを得ず、必要な手続きは基本的には一本道で整理されたものではあるものの、法律や裁判というものに詳しいわけではない一般の方にしてみれば、難解で困難なものとなってしまったといえます。※3

 また、訴訟において和解の対象となるかどうかということも、必要な調査や収集すべき資料など、やるべきこととしては基本的に一本道で整理されたものとなったといえるのですが、その調査や収集自体はやはり一般の方が自分で行うことは容易ではなく、結局のところ専門家に依頼する他ないということが実際のところであろうかと思います。

 当職としては、現在の方法は、B型肝炎被害者救済のために活動してこられた先達たる先生方の尽力の結果、ようやく国との基本合意が成立したものの、それでも税金を原資とする国庫の金員を用いて支払いを行う以上は、最低限度の厳格さ・画一さ、確認を避けては通ることができないという、ある意味で非常に高度な妥協の産物であるといえ、様々な解決困難な問題、本質的には相互にひくに引けない問題において、現実的な解決を図るという視点で大いに参考になるものと思っています。

4 最近当職がお聞きしたB型肝炎給付金に関するお話はいくつかあるのですが、そのうちの一つは上記内容にも触れるものだったことから、当職としても改めてその経緯などについて考えをまとめたものでした。

 本来的に言えばB型肝炎被害者の皆様には、簡易迅速な手続きで被害回復のための賠償金が支払われるべきであるといえるでしょうし、それがあるべき姿なのかもしれません。

 しかしながら、現在の方法が決して無意味に被害者の皆様に負担を押し付けることを意図しているわけではないということや、B型肝炎被害者の救済策として、たどり着いた「ベストではないかもしれないが現時点でベターなもの」であるということはどうかご理解をいただければと思います。

 そしてもしも、「そうはいっても給付金を受給するために何をすればよいかわからないし、どこに行けばよいかもわからない」とお悩みなられたのであれば、一度弁護士にご相談に来ていただければ、必ず良い道をお示しできるかと思います。

〈弁護士 溝上宏司〉

※1 このような、国との間で個別の事件を離れた被害者救済に向けた基本合意が成立するということはかなり珍しいものであるといえるでしょう。

※2 もちろんこれは国が法的責任を免れて、解決金名目で金銭解決を図ったというものではありません。同法制定の下である上記基本合意において、①国が責任を認めて謝罪すること②被害者への不当な偏見・差別が生じないように検査・医療・研究その他の必要な施策をとること③再発防止に努めることなど、国の責任を明確に肯定したうえで、被害者救済のための方策として同法を制定しているものです。

※3 そもそも、受給のために訴訟提起を行い、裁判上の和解を成立させなければならないということが、一般の方にはハードルの高いものと言わざるを得ないでしょう。

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