弁護士雑感

2021/11/02 弁護士雑感

【弁護士雑感】公示送達について

 今年の8月、大阪高等裁判所は、2010年に9000万円の返還を命じる判決を言い渡していた京都地裁の判決について、訴訟提起がなされていたことを知らなかったとする男性側の言い分を認め、判決から約10年経過後になされた控訴について有効と判断し、当該地裁判決を破棄して、審理の差し戻しを命じました。

 民事訴訟の控訴期限は、「判決の送達を受けた日から2週間以内」と定められており、10年以上を経て破棄されるというケースは非常にレアケースであると思われることから、この判決について、少し書いてみようと思います。

 まず、「公示送達」という言葉を聞いたことがある人もおられるかもしれませんが、本件においても、この「公示送達」という手続きが利用されていました。

 どういう手続きかというと、民事訴訟を提起する場合、原則として相手方の防御権を確保する必要があるため、相手方の住所地(就業場所)を訴状に記載し、相手方が現に当該訴状を受領する必要があります。しかし、中には、住所が不定の方もいるため、その様な場合においても、訴える側が泣き寝入りをしないで済むための救済手続きが必要であるところ、その救済手続きの一つが公示送達ということになります(民事訴訟法110条1項1号は、公示送達を認める要件として、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」と規定しています)。

 「公示送達」が認められると、裁判所内にある掲示板に判決文や訴状を掲示することで、訴訟の当事者のもとに届いたものと認められることになります。

 しかし、単に住所が分からないという理由だけで、公示送達という手続きを安易に認めてしまうと、相手方の保護に欠ける(裁判所に定期的に自身が訴えられているかどうかを確認に来る人など普通はいないため、公示送達の名宛人がその内容を了知するということは通常あり得ず、要は、裁判において反論をする機会を奪われることになります。)ことは明らかですので、「送達をすべき場所が知れない場合」との要件については、「公示送達を申立てた人が、送達すべき場所を知らないというのではなく、通常人が誠実に探索調査しても、送達をすべき場所が判明しないという客観的事情が認められる場合」をいうと解されており、実務上は、受送達者の最後の住所等を隈なく探索したが、居住または存在を確認できなかったこと、加えて受送達者の就業場所についても探索したが判明しなかったことなどを、裁判所に対して丁寧に説明する必要があります。

 弁護士であれば、訴訟提起をするためなど、きちんとした合理的理由が存在すれば職務上請求という手続きによって、相手方の名前、本籍地等を頼りに住民票や戸籍附票などを取り寄せることが可能ですので、我々が公示送達を検討する場合、まずは相手方の最後の住所地を割り出し、当該住所地に赴いて、調査報告書を作成することになります(近隣住民からの事情聴取、ガスメーターの確認など、一見すると怪しまれるような作業を強いられることになり、かなり大変です・・・)。

 冒頭の事件においては、原告の側は、被告の同僚の方の証言を記載した調査報告書を作成し、それらを基に一審裁判所は、「所在不明」にあたると判断し、公示送達を認めていました。

 しかし、大阪高裁は、当該同僚の方から事情の聴取をしたのは訴訟が提訴されるよりも凡そ5年前もあったこと、また、内容自体も「伝聞(又聞き)だった」ことを理由に、原告の側が「調査を尽くしていなかった」と判断し、公示送達を認めた地裁の判断は「合理性を欠き違法である」と結論付けました。

 確かに、5年も前の同僚の証言で、しかも又聞きであるとすると、それを信用することはできないとの判断も十分理解できるところではありますが、ただ一方で、原告側もひとしきりに苦労したのだろうということも分かるだけに、相手方が「所在不明」の場合に対する手続きについて、より良い手続きはないものかと非常に考えさせられる判決内容でした。

 皆様は、この判決にどのような印象をお持ちになられるでしょうか。

〈弁護士 松隈貴史〉

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