弁護士雑感

2016/11/30 弁護士雑感

【弁護士雑感】私有地なのに除けてはダメ

 当事務所において個人の方・事業者の方を問わず、一定の割合でご相談いただくものに「私有地に放置されている物を撤去してよいか」というものがあります。

 これは、例えば個人の方であれば「相続などのために田舎でほったらかしになっていた土地を見に行ったら自動車や家電製品などが残置されていた」というものが多いですし、事業者の方であれば「店の駐車場に違法駐車車両があって困っている」「顧客がちょっとだけ預かってほしいといっておいて行った私物(といってもそれなりに大きなもの)をいつまでたっても取りに来ない」というようなものが多いものです。

 

 

 このような場合、素朴な感覚では「他人の土地に勝手において言ったものなんだから勝手に処分しても良かろう」ということになるのでしょうが、法的観点から見るとそのような対応は後々大きなトラブルと、思わぬ責任を背負い込みかねない危険なものということになります。

 そこで、今回はこの点について少しお話してみようと思います。

 

 

 上記のような相談をされる方の多くは、おおむね「本当は勝手に処分してしまいたいのだけれども後で何か問題になったら困る。弁護士からお墨付きをもらって安心して勝手に処分してしまいたい」とお考えです。

このようなお気持ちは非常によくわかるところではあるのですが、残念ながらわれわれ弁護士としてはこのようなご相談に対して「他人の土地に勝手においていったんですもんね。勝手に処分してしまいましょう。」とはお答えできません。※1

 それは以下のような理由によるものです。

 

 

 まず、「他人の土地に勝手において行かれた物」であっても、法律上その物の所有権は失われていないものと考えられます。

 そうすると、その物は当該土地等の持ち主の側から見ると「自分の土地に勝手において行かれた『他人の物』」ということになります。

 この「他人の物」という部分が大切であり、あくまで「他人の物」ですので、所有者に無断でこれを破棄したり売却したりすることはできません。もしもこれを強行してしまうと、刑事上は器物損壊罪の罪責を負うことになるでしょうし、民事上は不法行為に基づく損害賠償責任を負うこととなります。

 

 

 どこか別の場所に移して保管するということは可能ですが、その為の保管場所を確保する必要があるという意味では、それほど有効な方法とはいえません。

 保管場所を確保することなくどこか別の場所(例えば公道であったり更なる別の人の土地)などへ移転させてしまうという方法を考える方もおられるかもしれませんが、そのような方法はご自身が違法行為を行うことを意味するものであって、最終的な責任追及の行方を考えるととてもお勧めできるものではありません。

 

 

 そこで、このような法的責任を負わないようにするためにまずは持ち主を探し出して撤去させるという方法を探ることになります。

 持ち主が顧客であったり、あるいは隣人であるなどの事情があれば比較的容易に持ち主を特定できるのですが、そうでなければ放置自動車などの場合はナンバープレートなどから持ち主を特定するという作業が必要となります。

 

 

 さらに、無事に持ち主を特定できたとしても、持ち主がその物を自主的に撤去してくれるかどうかは分かりません。

 もちろん、「他人の土地に勝手においている物」ですので、法律上これを収去する義務があることは疑いがないものと考えられますが、そもそも「他人の土地に勝手に私物を放置する」ような持ち主ですので、遵法精神が欠如しているとか、あるいは持ち主が何か理由をつけて収去を拒むということも考えられます。

 

 

 この場合、その物の持ち主と話をして、例えば「所有権放棄」をしてもらうという方法を考えなければならないかもしれません。

 その物の所有権を放棄するという確認書を作成しておくことにより、今後こちらで勝手に処分したとしても上記したような刑事上民事上の責任から完全に免れることができるのです。

 ただ、この場合、処分費用はご相談者もちということになることまで覚悟する必要があります。

 もちろん、本来であればその物の持ち主が処分費用等については負担するべきなのですが、このような「べき論」に拘っていては結局持ち主が開き直りとも取れる言い訳を強弁して、いつまでたってもその物の撤去が進まないということがあるためです。

 ご相談者としては、ご自身の土地に不法に残置物を置かれた上に、その処分費用まで負担しなければならないということになり、なかなか納得することのできないということもある場面です。

 

 

 また、持ち主を特定はできているものの、実際に持ち主と連絡が取れないということもよくある話です。このような場合、持ち主にその物を撤去するようにという要求を伝えること自体ができないため、残念ながら持ち主による自主的な収去は期待できないということになります。

 

 

 これらの「持ち主の自主的な行動による撤去」による解決が困難な場合、裁判所に民事訴訟を提起して、判決を取得した上で強制執行として撤去する必要が出てきます。

 自分の土地に勝手に置かれたものを撤去するために、わざわざ裁判を行い、弁護士費用を負担しなければならないということは、非常に腹立たしいものかとは思いますが、自力救済が禁止されている日本においては他に方法がないというのが現実なのです。

 

 

 訴訟や強制執行においても、上記しました「持ち主に自主的に撤去させる方法」と比べてより大きな労力的・時間的・経済的な負担が生じるのですが、少し長くなってきましたので本日はここまでとしておきます。

※1 期待に沿えない回答をすることになってしまう、がっかりされることも多いのです。

〈弁護士 溝上宏司〉

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